リドヴォーでシャンパーニュ。

ちょっと珍しい病気になってしまったコピーライターの日記です。

「リドヴォー」、シャンパンに合いそう!

胸腺に腫瘍がある、と聞かされたとき、

酒好きで食い意地が張った私の脳裏に

最初に思い浮かんだのが「リドヴォー」。

つまり、フレンチでたまに出てくる「仔牛の胸腺」料理だった。

とはいうものの、この中途半端に長い人生の中で、

リドヴォーを食べた経験は、たった一度。

23歳の頃、当時住んでいた国立のビストロで、

「リドヴォーのトマト煮込」的なものをいただいた。

何しろ相当昔なのでうろ覚えだが、

ぷりぷりっとして、なかなか美味しいものだったような。

ちょっと調べてみたところ、焼肉屋では

「シビレ」という名前で供されているのだとか。

 

国立がんセンターで「胸腺腫」と診断されたとき、

なぜかお腹がぐううっと鳴った。

なぜかというか、当たり前なのだが、

その日は病気がどう診断されるのか不安で、

朝からほとんど何も食べていなかったから。

 

とりあえず、画像に写る腫瘍の形状から良性の可能性が高いこと、

当初6センチと言われていた大きさが、4.7センチであること。

胸腔鏡手術で摘出するには微妙に大きいが、

正中線の切開ではなく、腋の部分を小さめに切開する

比較的負担の少ない方法で手術ができそうだということ。

そして何より、担当のW先生の感じがとても良く、

この人になら信頼してお任せできる!

という実感が得られたことがとても大きかった。

 

初めての診察から検査、会計を済ませ、

その足で銀座三越に向かった私は、地下2階のオーガニックデリの店へ。

メニューの中からどれを選ぼうかと迷っていると、

体操のお兄さんみたいに元気で愛想のいい男子が、

揚げたてのカキフライを爪楊枝に差して「どうぞ」と差し出してくれる。

かりっとした香ばしい衣、みずみずしくジューシーな牡蠣の風味。

10時間以上ぶりの食べ物、何て美味しいんだろう!

「あーー、シャンパン飲みたーい。旨いもの食べたーい」と

心と胃袋が叫んでいた。

希少がんだけど、わたし結構大丈夫かも?

と、久しぶりに思えた瞬間だった。