リドヴォーでシャンパーニュ。

ちょっと珍しい病気になってしまったコピーライターの日記です。

藁にもすがる思いで、易占に。

胸腺腫・胸腺がんの疑い。

 

人間ドックの報告書にさりげなく書かれた、不穏な一行。

すべてのはじまりは、ここだった。

 

それから、国立がんセンターを受診するまでの1週間は、

永遠のように長く、気持ちがアップダウンを繰り返し、

じたばた、悶々と、落ち着かない日々だった。

 

ひとくくりに胸腺腫といっても、良性と悪性があるらしい。

もし悪性なら、まわりの臓器、肺や心臓、血管などに浸潤し、

命にかかわる状態になっているのかもしれない。

最悪の想像が頭を駆け巡るが、

娘にいらぬ不安やストレスを与えたくないので、

なるべく平静を保つように心がけていた。

ちょうど仕事の状態は落ち着いていたので、

普段から日課にしている六義園への散歩に出かける途中、

ふと思い出したのは、15年以上前に見てもらった

巣鴨の占い師のおばあさんのこと。

当時は仕事や結婚のことを占ってもらったのだが、

かなり的を得ている印象があった。

当時も結構なお年だったし、まだやられているだろうか・・・

確信のないまま、巣鴨に向かった。

 

地蔵通りの入り口を左折して数分の古いマンションに、

「易占」の看板がまだ掲げられている。

細く隙間の空いたドアから中の気配を伺いつつチャイムを押すと、

ややあって「はあい」という返事が。

「どうぞお入りください」という声に従いドアを開けると、

私は軽く衝撃を受けつつ三和土にたたずんだ。

まあ、典型的なゴミ屋敷の様相を呈している。

衣類やごみや食器、紙類などなどがいたるところに山となり、

玄関から見える和室の真ん中には敷きっぱなしの布団らしきものも。

しかし、不思議に異臭などはなく、

空気がそれほど淀んでいないのが救いではあった。

 

緩慢な動作でこちらに近づいてきたのは、

真っ白な髪で小柄なおばあさん。

以前お会いした時と印象が違うような気もしたが、

何しろ15年以上経つのだから仕方がないだろう。

 

部屋の一番奥のテーブルの前に座るように促され、

ふつふつと後悔の念を湧き上がらせつつも従った。

目の前にはなぜか、茶色く酸化したりんごが2切れのった皿と、

開封して洗濯ばさみで留めたせんべいの大袋が2つ。

テーブルの上は、その他ごちゃごちゃと

訳の分からないもので埋め尽くされている。

けっこう綺麗好きな私にとっては、

ストレスが溜まりまくりそうな空間である。

椅子の上でもぞもぞと居心地悪く体を動かす私の前に、

易占のおばあさん「鈴木昶園(しょうえん)」先生が

にこやかな表情でお座りになられた。