リドヴォーでシャンパーニュ。

ちょっと珍しい病気になってしまったコピーライターの日記です。

旅に出かける「理由」と「自由」を、もう一度。

ほぼひきこもり生活になってから約1ヵ月。

 

フリーランスのコピーライターという仕事柄、

もともと自宅が仕事場だし、

生来の出不精でもあるので、

それほど生活が激変したとも感じていなかったのだが。

 

机の中から昨年のスケジュール帳がひょっこり出てきて、

何気なく眺めていたら・・・

去年の私、けっこうアクティブ!

 

ちなみに2019年4月の最終週は

月曜 英会話レッスン

火曜 中野で観劇

水曜 英会話レッスン

木曜 表参道で食事会

金曜 成田のホテル泊

土曜 カンボジアシェムリアップへの一人旅に出発

 

対して、2020年同時期のスケジュール帳

 

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ほぼ真っ白。

 

ちなみに、私はここ10年以上、

ほぼ日手帳WEEKS」を使っている。

週間スケジュールの一番下に、

毎週1つのちょっとした言葉が掲載されているのだが、

2019年版の4月最終週には、こんなつぶやきが。

 

「今いる自分の場所と遠くの街が似ていたら、

旅に出かける理由がなくなるじゃないですか。

世界よ、どうぞ似ないでください」

 

コロナ禍の下、世界中が似たような状況にある今、

旅に出かける「理由」も「自由」も奪われてしまった。

来年の私の手帳には、どんな予定が書き込まれているんだろう。

暇になると、元気がなくなるフリーランス。

フリーランスで働く多くの方々と同じように、

私もこのところ、かなり暇である。

幸い、レギュラーの仕事が何本か進行しているので

まったく何もしていないというわけでもないけれど、

対前年比でいえば50%以下の稼働率かな、体感的に。

ということは、今動いている仕事が形になって請求に入る

2~3ヶ月後くらいから、収入はどんどん減少するだろう。

 

空いた時間を有効に使いたいと思って

オンライン英会話を再開してみたり、(びっくりするほど話せなくなっていた)

ホコリをかぶっていたピアノを弾いてみたり(びっくりするほど下手になっていた)。

自らの急速な退化っぷりを再確認してがっかりする日々。

ん?

ということは、このまま仕事が減ってしまうと

コピーライターとしてのスキルも退化してしまうのでは?

 

・・・という新たな危機感に直面しつつも、

ほとんどの時間はネットニュースを見たり、

SNSをチェックしたり、ということでずるずると過ごしてしまう。

自分でも何か発信を、と思っても、

ネット上に次々と現れる主張や意見やデマや見識やらにアテられて、

今さら自分が何を書けばいいのやら、という気分になり、沈黙。

みんな、言いたいことがいっぱいあるんだなあ。

私だってそれなりにあるはずなんだけど、

物言えば唇寒し秋の風松尾芭蕉

まあ、まだ春なんですけどね。

コロナに感染していなくても、コロナのせいで亡くなる人々・・・

今や、病気といえばすべてコロナ一色、

病院にはコロナの患者しかいないような錯覚に陥りそうなほどだが・・・

もちろん、今この時にもさまざまな病気や怪我、

さらにはもっと深刻な病が発覚して、一刻を争う状況に直面しているひとがいる。

というか、数的にはその方が圧倒的に多いだろう。

 

たとえば、東京都の平成30年度の救急活動状況を見ると、

1年間の救急出場件数は818,062件。

これを一日当りに換算すると、約2,241件。

この数日の東京都の新型コロナ陽性判明者を100名前後とすると、

20倍以上となる。↓

 

www.tfd.metro.tokyo.lg.jp

 

私が悪性腫瘍の手術を受けたのは、約2か月前。

もしそれが今だったら?

もっとも、私が入院したのはがん専門病院だから

感染症患者の受入れはしていないし、

手術は粛々と行われたかもしれない。

でも、多くの病院ではこのコロナ禍の影響で手術が先延ばしされ、

そのせいで命を落とすことになる方もいるのではないか・・・

 

以下、

慶應大学病院のドクターによるFBへの投稿を一部抜粋。

(コロナの)重症者が増えるということがどういうことか。
延期できるものはすべて延期されます。
だから何って思いましたよね?
どういうことか。
あなたやあなたの大切な人に癌が見つかったとします。
手術さえすれば全部取りきれそうなレベルです。
でも、最短で数ヶ月、下手したら半年先まで手術できませんって言われます。
なぜか。
手術後は集中治療室のベッドを使うからです。
そのベッドが、コロナの重症患者で使用している/するので、現状もう手術患者に使える場所が存在しないからです。

日本はもうこの状況まできています。
他人事じゃないんです。
自分の大切な人を守りたければ。
自分の大切な人を守って欲しければ。
お願いだから遊びにでないで。
社会的距離を保って。

 

 

本当に、本当に、いま止めないと。

コロナ疑惑の3週間。

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3月25日、六義園の枝垂れ桜

手術から2ヶ月、レントゲンは問題なし

 

術後2ヶ月の外来を受診したのは、3月26日のこと。

そのわずか数日後に、国がん病棟勤務の看護師さんに

コロナ陽性が出たと聞いて驚いた。

そういえば外来の時、W先生、マスクもしていなかったなあ。

時節柄、さぞかし厳戒態勢かと想像していたら、

意外にいつも通りだったので拍子抜けしたのであった。

 

「まさかコロナ!?」と怯えた日々

 

そして私自身、この3週間ほど、

コロナ疑惑で自主的に隔離生活を送っていた。

3月17日に鼻水、くしゃみ。

19日に38.3℃の発熱があったものの、

その後は36~37℃前後で落ち着いていた。

 

念のため都の相談窓口に電話してみたところ、

「症状から言って、普通の風邪だと思いますよ。

実際、今のところほとんどの方はそうなので~」と。

しかし、万が一を考えて外出を一切とりやめ、

食事も自室で摂るなど、家族との接触も最小限に。

 

仕事と読書と映画漬けの日々

 

発症から3週間が経過し、家族にも移ることなく症状は軽快。

ちょうど26日の外来でレントゲン撮影を行い、

肺の状態にはまったく問題なかったので一安心。

 

でも、最初の1週間はかなり不安だったなあ。

もしも陽性だったら、すでに誰かに移していたかもしれないし。

 

楽しみにしていた2つの飲み予定をキャンセルし、

自室にこもって仕事をしたり、本や漫画を読みまくる日々。

撮りためていたHDの映画もかなり消化できた。

 

写真は、体調の良い時にぶらりと出かけた六義園の枝垂れ桜。

この数日後に、ここも臨時休園になってしまった・・・

 

いつまで続くのか、この閉塞感。

こんなお宿でリモートワークしたい!「里山十帖」

そうだ、温泉行こう

 

退院から一月半。

手術の傷もだいぶ目立たなくなってきたので、

じんわりと閉塞感漂う東京を抜け出し、

1泊2日の温泉旅へ。

 

ヘルシーな料理と、

『なーんにもしない』を満喫できる宿がいいなーと思っていたところ、

ふと目に入ったのが、「里山十帖」。

www.satoyama-jujo.com

 

かなりの有名宿で、普段はなかなか予約困難らしい。

しかし、幸か不幸かこのコロナ禍でキャンセルが多発、

数日後の予約をとることができた。

 

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部屋からは巻機山を一望

 

越後湯沢はスキーで何度か来ているが、

さらに二駅の「大沢駅」から送迎バスで約5分。

築150年という重厚なレセプション棟を中心とする

なんとも趣のある外観のホテルだ。

 

 別荘感覚の客室、居心地最高

 

到着すると、まずはロビーでウェルカムドリンクと

ケーキ&お漬物のサービス。

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ドリンクはスパークリングワインを選択

 

予約したのは最後の一部屋で、201の「露天風呂付ファミリーメゾネット」。

下階はハンス・J・ウェグナーのソファが置かれたリビングと露天風呂。

上階にベッドルーム&バスルーム。

天然木のロッキングチェアに座って眺める、

日本百名山のひとつ、巻機山の景観も最高。

住むように滞在できる、居心地の良いお部屋。

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北欧風のリビング

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ベッドには2種類の枕が


 

とろっとやわらかな美容液風呂と、滋味深い料理。

 

 

コーヒーで一服してから、客室と同じフロアにある大浴場へ。

露天風呂からは、残雪を纏った山々が一望できて息を飲むほど。

そしてお湯がまたやわらかい・・・

とろみがあって、まるで美容液のような肌触り。

もともとあまり長風呂は好きではなく、さっと10分ほどで上がったのに、

その後いつまでも湯冷めすることなく、

からだがぽかぽかと保温されていた。

 

 

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前菜はさつまいもとじゃがいも

 

 

夕食は1階のダイニング「早苗饗(さなぶり)」の個室で。

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絶妙な和洋折衷の個室でお食事

有機野菜をメインに、旬の魚、ほんの少しの肉を組み合わせた

滋味深い料理の数々。

グリルした野菜に切干大根のソースを合わせたり、

一見「たこ焼き?」と思ったら白子の揚げ物だったり、

1品1品に驚きがあり、

ペアリングのワインや日本酒も絶妙なセレクトで

幸せ過ぎるひととき・・・。

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ぶりのポワレにバジルのソース

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ほうぼうのカルパッチョにいろいろな野菜や香草

 朝ごはんがまた至福

 

今年は雪が少なくスキー場もすでに営業を終了している越後湯沢。

しかしこの夜は夜半から雪が降り出し、

朝起きたら窓の外はすっかり雪国の光景に。

 

朝食は、魚沼コシヒカリの玄米と、各テーブルで仕上げてくれるお味噌汁、

出汁巻き卵やイワシの生姜煮、ご飯がすすむお供の数々。

はああ、眼福&満腹~

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朝食の前菜

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ご飯のお供いろいろ

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この出汁巻きが絶品!



確かにお値段はちょっと張るけど、

また絶対リピートしたい宿。

 

こんな美しい自然に包まれて、滋味深い料理をいただけたら、

「がんにならない生き方」が実践できるかもしれないな。

 

初めての「がん友」に遭遇した夜。

酒とつまみと病気のことと・・・

 

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大塚「まるま」にて

先週末、ちょっと不思議な飲み会に参加した。

 

場所は大塚駅そばの、美味しい日本酒と

それに合うおつまみが楽しめる、雰囲気のいい居酒屋だ。

 

retty.me

 

集ったのは、男女それぞれふたりずつ。

といっても別に合コン(笑)とかではなく、

私にとっては、いわゆる「がん友」との初対面。

 

きっかけは、知人のライター・Nさんが

「実は自分の友人がサバねこ主義さんと同じ病気で、

一昨年手術を受けたんですよ。

もしよかったら一緒に飲んでみませんか?」

と声をかけてくれたこと。

ちょっと不思議な集いではあるが、

滅多に知り合えない「希少がん仲間」とお会いできるチャンス。

喜んでお受けし、デザイナーの友人も誘って出かけたのであった。

 

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あまり見たことのない銘柄が充実

 

腫瘍の大きさ・性質は近いのに、術式はまるで違う!

 

初めてお会いする「胸腺腫仲間」のMさんは、

穏やかな物腰でとても感じの良い人だった。

会社の健康診断のレントゲンで腫瘍が発覚し、

一昨年にK大学病院で手術を受けたそう。

 

Mさんは胸腔鏡ではなく胸骨正中切開で、

腫瘍ごと胸腺や周りの組織も摘出したそうだ。

(私の場合は胸腔鏡手術で、腫瘍のみを摘出)

私より腫瘍は小さめだったのに、手術はかなり大掛かり。

何と、術後の傷の写真や病理診断の結果まで見せてくださった。

正中切開の傷、なるほど、なかなかの迫力!

 

病期(Mさんは0期、私はⅠ期)や

病理診断の結果(AB型)はかなり近しいのに、

手術の手法やアプローチはまったく異なるところが、

「標準治療」が確立されていない希少がんならでは。

 

それにしても、20万人に1人といわれる希少な病気の経験者を

2人も知人に持つNさんは、かなりのレアケース。

おかげで、いろいろな情報や経験をシェアする

貴重な時間を過ごすことができた!

(余談だが、今回のメンバーは仕事でもちょっとしたつながりがある上、

それぞれ多方面に博識かつマニアックなので、

病気話を別にしても、あちこちに会話が転んで楽しい)

 

きっと、乳がんとか肺がんとか

比較的患者数の多い病気にかかっていたら、

患者会など、がん友とつながる機会も多いんだろう。

 

Mさんも私も、胸腺腫の治療は一旦「卒業」したものの、

これからも経過観察、再発への懸念は続く。

情報が少なく、孤独になりがちな希少がん患者が、

もっと気軽に病気について語り合えたらいいのに。

 

今週のお題「卒業」

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刺身盛り合わせ。特に鯨が絶品!

 

「おばあさん」が羨ましかった日々。

 

私が住む街は、東京23区の中でもっとも高齢化が進んだエリア。

つまり、道を歩けば高齢者にあたる。

 

昨年、病気が発覚して手術を受けるまでの間、

散歩や買い物の途上でおばあさんを見るたび、

やけに羨ましくて仕方がなかった。

 

もちろん、別に「孫が欲しい」という話ではなく。

 

人生でもっとも「死」に近づいたとき、

ひしひしと迫ってきたのが、

「私はおばあさんになれないかもしれない」

という怖れの感情だったのだ。

 

術後1ヵ月が経過して、ふと気づいたら

あれだけ羨ましかった「おばあさん」の姿が、

すっかり日常の中に溶け込んでしまっていた。

 

手術が無事終わり、病理検査の結果も出て、

とりあえず、「最悪の想定」は免れたといえるだろう。

 

しかし、危機感は一時より薄らいだものの、

死の気配はいつでもそばにあるような気がする。

 

私が「おばあさん」になれる確率はどのくらいなんだろう?

 

そんなとりとめもないことを考えつつ、

うるう年の今年、2月29日は行きつけのレストランを予約し、

スパークリングワインで乾杯した。

 

次のうるう年に、私は還暦を迎えているはず。

憧れの「おばあさん」に、いつか私はなれるんだろうか。

 

 

 

今週のお題「うるう年」